*読んだ本、ただ見かけただけの本、感想、紹介、覚え書きなどいろいろを気が向いた時に。

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2007年〜

2005年〜2006年
sato-chan  酒井駒子の名を初めてしったのは『よるくま』だったか『ぼく おかあさんのこと...』だったか....とにかく子供のシルエットを描かせればいま世界 でも十指に入るのではないかしら、とまで思ってしまう。(世界のすべての描き手を知っているわけではないとはいえ)少なくとも私にとっては不動の一位。う つむく表情、見上げる表情、笑う、泣く、駆ける、風に吹かれる....厚みのある塗りなのに、さらりと透明感のある絵柄で描かれた子供達は、いつもどこか 夢の中を漂っているかのよう。そしてその夢の背景は黒。色彩の美しさと沈んでゆくような感触の絶妙さには、思わず息をつめてしまいます。似たような雰囲気 が他にどれだけ多くても、見る人の胸をどこかハッとさせる絵はほんの一握り。そういったものを描けるというのは、すごいことだしオソロシイことだと改めて 思います。(03.10.20)
「金曜日の砂糖ちゃん」  酒井駒子 / 偕成社 / 2003年



alice  今回の旅行('03 8〜9月ドイツ&チェコ)で厳選の末、携えた本5冊のうちの1冊。見るもの聞くものすべて日常と異なり、文字はアルファベットな世界では、こういったもの が心と頭を休めるのに役立つはず、と選んだのですが、逆にあまりの面白さに夜ねられない程でした。何年も前とはいえ一度は読んだ本なのに。...特に読書 仲間もいなかった孤独な学生時代(今もあまり変わりませんが)。そんなとき夢中になって読んだひとつが時代小説、中心は池波正太郎とこの藤沢周平。コアな 時代ものファンには初心者もいいところなのですが、それでも面白いものは面白い....読書の喜びはここにあり、なんて生意気にも思ったものでした。本書 は、普段はうだつがあがらなかったり、心に何か屈託を持つサムライが、一撃必殺、愛刀一閃、身につけたとっておきの秘剣を人生最大のピンチで使い、難局を 乗り切る、という痛快な短編小説シリーズの一冊です。市井(町民ものですね)ものが高く評価されている藤沢ですが、私はやはり武家ものが好き。その真骨頂 は短編、特にこの隠し剣シリーズにこそつきる、と亡き藤沢氏の墓前に花をたむけたいくらいなのです。なかでも「暗黒剣千鳥」が素晴らしく....とまらな いので今日はこの辺で。(03.9.12)
*時代小説が好きと言うと(あまり言わないけど)よく「シバリョーとか?」と反応されますが、違う!司馬遼太郎は歴史が舞台の歴史小説。時代小説は昔が舞台なのだ、と区別しています。世間的にはどうなんでしょうね。もちろんシバリョーも大好き。
「隠し剣秋風抄」  藤沢周平 / 文春文庫 / 1984年文庫初版 / カバー:蓬田やすひろ



alice  岩館真理子にはそれほど夢中になった覚えはなかったけれども、最近知ったこの作品には不思議な魅力を感じます。主人公はどこかの地方都市に住み女子校に 通う2人の女の子。一人は明るく純真な少女。髪は真っ黒なショートカット。もう一人は醒めた表情も独特の雰囲気を持つ、外国の血が混じる美少女。髪は栗色 (多分)で長い。この対照的な2人の間には過去に起きたひとつの事件があります。ページを追うごとにその詳細は明らかになり、やがて事件の重さと共に2人 の内面も見かけ通りではない事がわかってきます。でも私の心を捉えたのは、そんなサスペンスタッチのストーリーだけではなく、黒髪の少女が住む家が古本屋 であることです。古本屋に住む女の子が主人公の漫画なんて珍しいと思いませんか? 残念ながら、単なる住居として以外に古本屋のシーンは出てきませんでし たが、なかなか清潔で素敵そうなお店。どんなジャンルに強いのか、女の子は店番したりするのだろうか、こんな町はずれで経営は大丈夫なのだろうか...な どなど本筋と関係ない想像ばかりしてしまう。作者はどういうつもりで古本屋の娘にしたのでしょうね。(03.6.6)
*素敵な古本屋が出てくる女の子漫画といえば「パパ・トールド・ミー」なども思い出します。パパが作家だからでしょう。他にもありましたら是非教えて下さい。
「アリスにお願い」  岩館真理子 / 集英社 / 1991年



12months  かわいらしい本を買いました。お料理研究家の女性が綴る一年間のお料理ダイアリー。でもその大半はお菓子が占め、十二ヶ月それぞれの月に相応しいスイー ト(スウィート?)を紹介してくれます。2月はビターチョコレートクッキー。5月はアボガドのパウンドケーキ。7月の杏仁豆腐に11月のチャイプリン!ど れもこれも見てるだけで楽しく想像するだけでおなかいっぱい。レシピのあいまに挟まれたエッセイの穏やかな暖かさや、見開きページの半分を埋めてくれる写 真の数々、そのなんとも言えずキュートなスタイリング。そして見返しに使われた遊び紙の選択の絶妙さ。そのどれもが飛び出すことなく素晴らしい調和を保っ ています。恥ずかしながら、わたしは生まれて一度もお菓子づくりなるものをしたことがありません。おそらくは今後も。でも、こんな見てるだけで幸せにして くれる本があれば、もうそれだけで一生分のお菓子体験をすませた気分になれそうです。とはいえ...せめて12月のロシアンティーくらいには挑戦してみて もいいかも。(03.5.21)
*右下のひつじは見返し紙に描かれているもの。まるでヤギのゆきちゃんです。
「十二ヶ月のバスケット」  松長絵菜 / 女子栄養大学出版部 / 2003年 / AD:有山達也 yuki  



galesburg  ジャック・フィニイはノスタルジーの作家。多分そう断言してもよいのでしょう。大量生産・大量消費を伴うテクノロジーの洗礼を受けない、19世紀末から 20世紀前半までの"古きよきアメリカ"を懐かしむ、SFとメランコリーを融合させた作風が魅力です。最初に読んだ『レベル3』で私も、その懐古的名調子 にすっかり感化され、この美しい時代はもう戻らないのだと激しい切なさを感じたものでした(といっても書かれた頃はまだ60年代。既に今の私たちが懐古す る時代です)。そして本書で特に印象深いのは、建物に関する描写の数々。<わきの芝草の道には馬車の発着のためにつくられた石の踏み台が>ある町を懐かし み、<小塔と、屋根窓と、多数の切妻のある家の大きな黒いシルエット>を見上げ、<立ちどまって、目を閉じ、湿ったしっくいのにおいや、新築されたばかり の家のなつかしくかぐわしい木の香りを>かぐ事に喜びを見いだす ...私たちの住む世界なら、それはそのまま「黒木の格子戸」であったり「障子から洩れ る日の光」だったりするのかもしれません。なにより、"現代"に生きる作中人物の独白<今日われわれが建てる家のうちから、今から一世紀のちにも人を住ま わせ愛されているなどということがどうして想像できよう?>は、今の日本の住宅事情そのままで、奇妙な感慨にとらわれます。 内田善美の表紙は変わらず素 敵ですが、この本にふさわしく?できればバーコードのないものが欲しいと思い、古書で初期の版を探していたため読むのが遅れた名短編集でした。 (03.4.8)
「ゲイルズバーグの春を愛す」  
ジャック・フィニイ / ハヤカワ文庫 / 1980年文庫初版(初出:1962年) / カバーイラスト:内田善美



dokusyosusume  岩波文庫編集部編による、『読書のすすめ』という小冊子がいま手元にあります。書店で無料配布される各種目録や冊子は大事にとっておく方なのですが、こ の『読書のすすめ 第3集』は、すぐ手の届くところにおいてあるせいか、もう何十遍も拾い読みし続けてきました。この号が特に気に入ったわけではなく、偶 然の配置による結果なのですが、その割には誰がどこにどんな事を書いているかは、そのつどきれいに忘れています。好きな時に好きなところを拾い読みし片っ 端から忘れていくのは、頭も休まる楽しい読書のひとつです。それでも中にはやはり忘れがたい箇所がひとつ。 執筆者の一人・瀬戸内寂聴氏は、「若き日にバ ラを摘め」というタイトルで、若い頃に多くの読書を体験することの素晴らしさを説いています。それはもっともな説で、でももっともすぎて、これだけならた だ頭の中を通過してまた忘れるのみです。しかし編集部あとがきにある<このことばに接すると、すでに若くはない人びともまた摘むべきバラは我々にもある、 と思うのではありますまいか>というこの一文によって、瀬戸内氏の言葉は急にクリアになります。そして他のすべての執筆者の文章は忘れても、この名も知ら ぬ編集者の言葉だけは記憶に残り、時に勇気づけられもします。この先どれだけの年月が過ぎようとも、私たちはいつでもこの手にバラは摘めるのだと。 (03.2.15)
「読書のすすめ 第3集」  岩波文庫編集部編 / 1994年(非売品:現在は総集編が販売されています)



ten  松本清張が好きです。そのシンプルな筆致と力強い骨組みには、贅肉をそぎおとし、甘味を排除し、涙も強要しない、乾いたすがすがしさと深みを覚えます。 などと、今さらどう賛美しても陳腐に聞こえるのですが、今様の「社会派」推理では味わえない独特の渋みを求めて、時折無性に読みたくなるのです。今回数作 読み返してみて、たとえば代表作のひとつであるこの作品のこんな一節が目につきました。   <...ここまで考えてきて、三原は、安田辰郎がかならずそ こにいたという自信を強めた。作為が加わっている以上、その結像は虚像である。実像は反対に転倒している。一月二十日、午後九時から十一時の間、佐山とお 時との情死の現場、九州香椎の海岸に安田辰郎はかならずたっていた。そして、何かしていた!>   殺人犯と目した男の鉄壁のアリバイを崩せずに、一人も がく青年刑事の葛藤。彼が信じられるのは「あの男は悪である」という、一種の神の啓示にも似た己の直感だけです。アリバイは何としても崩さなくてはなら ず、男は必ず裁きを受けねばならない。暗闇でこぶしを握りしめるような信念と、緻密に構築された枠の中にふと覗く非合理な若い情熱。時刻表トリックの先が けとされる本作ですが、作者らしい文体の醍醐味は、一瞬に散る火花のような、この一節に凝縮されているような気がしました。(03.1.14)
「点と線」  松本清張 / 新潮文庫 / 1971年文庫初版(初出:1955年) / 装丁:辻光典



origata  『礼のかたち』と題されたこの清々しい面もちの小冊子には、「折形」という、紙による様々なかたちの可能性が織り込まれています。古来から日本人が贈り 物をする際に大切にしてきた、"紙を折る"という美しい習慣を、伝統的な美を守りつつこんなにもモダンに表現できるなんて。「匙包み」「鈴包み」「切手包 み」など、姿も呼び名も美しい12の折りの形を紹介するとともに、そこに俳人・小澤 實による句を添え、そして一月ごとに様々な人間に向けて書かれた彼の手紙が読み上げられる趣向。心憎いばかりの、見事な見事な紙の歳時記ができあがってい ます。和の習慣や、日本古来の伝統美、そういったものが失われてゆくのをぼんやりと嘆くのは簡単だけど、こうやって表現や姿を少しずつ変えて、また私たち の眼前に現れる(あるいは気づかされる)のも素敵なことだし、まだ大丈夫まだ忘れてないよ、と勇気づけられもして。鳩居堂に行くたびについ買い求め、使い 道も特にないまま引き出しに眠っているぽち袋を、全部並べてみたくなりました。この折形デザイン研究所のこれからにも注目し続けたいと思います。(02.12.15)
「礼のかたち」  折形デザイン研究所 / 2002



ko-ga  数年ぶりに忍法帖シリーズの数冊を読み返してみました。以前『本の雑誌』で、山田風太郎追悼特集の際に、そうそうたる忍法帖の読み手たちが選ぶベストと いうコーナーがありました。それらのベスト3が、自分の選ぶそれとはあまり大差がないのを見て、ちょっとホッとするような寂しいような。そして『魔界転 生』も『柳生忍法帖』も『銀河忍法帖』もそれぞれ素晴らしいのですが、やはりこの『甲賀忍法帖』が最大不朽の名作であることを、今回読み直して再確認した 次第です。この大いなる想像力の魔物の前に、物語の快楽を求めて私などはただただひざまづくばかり。未読の作品もまだあるため大きな事も決して言えませ ん。しかし同時にそれは、将来の楽しみをまだ残している..とも言えます。でも人生は短い。明日死ぬかもしれない。そう思うと「早く忍法帖を読んでしまわ なくっちゃ」と思う今日この頃です。そしてその時はやはりこの角川文庫版・佐伯俊男のカバーで、なのです。(02.11.14)
「甲賀忍法帖」  山田風太郎 / 角川文庫 / 1974年文庫初版 / 装丁:佐伯俊男





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