ここでご紹介するのは、ドイツ・ミュンヘンで小さな活版工房を営んでいる "FliegenKopf" の作品。活版の技術や文化が失われつつあるのはドイツでも同じですが、そんな中で、伝統ある文字と組み、そして印刷の手法を守りつつ、美しい印刷物や紙作品などを制作し日々新しい仕事に取り組んでいる工房です。運営しているのは一人の女性。そのC.Schwarztrauberさんに初めてお目にかかり作品を見せてもらった三年前から、一度当店で扱ってみたいと念じていたのが、先のミュンヘン行でかないました。

今回、実際に工房にお邪魔して入手したのは、FliegenKopfの代表作でもあるミニアチュール本。しかしいわゆる豆本のたぐいではなく、ジャバラ状に折りたたまれた小さな紙に古今の詩人の言葉がユニークなデザインで印刷され、内容にちなんだフィギュアなどのおまけがついた、小さくも見事なアート作品となっています。文字と印刷と本、そのすべてが好きな皆様に楽しんで頂ければ幸いです。

"Fliegen Kopf(フリーゲンコップフ)" とはドイツ語で「蠅の頭」の意。昔のドイツの印刷用語(あるいは隠語?)であるらしく、活字のボディ底部につけられた刻目の細い溝の事を指すとのこと。そこから、この工房の名も取られたそうです。 schrift


Fliegen Kopf 訪問記 


 
nadel
 Die kopflose Stecknadel
エーリヒ・ケストナー(Erich Kaestner)の詩より/マチ針のオブジェつき/テキスト:ドイツ語
\3500  

ミニアチュール本 "Mini-Leporello"シリーズ。

 マチ針のあたまを落とすことは賢明じゃない/
 あたまをはねられたマチ針は気づく/
 あたまなんかなくてもぜんぜん大丈夫なんだ/
 そうして今じゃあたまもお尻もどっちも危なくなった/

「あたまをなくしたマチ針」という、ケストナーの箴言のように短い詩をモチーフに、マチ針の頭がころころ転げ落ちる様が描かれ、頭をなくした一本の針(前も後ろも針になったので危ないわけです)と文字とをからめた美しいデザインが続きます。ケストナーのアイロニーこもった内容とユーモラスなデザインの対象が見事な作品。おまけのオブジェには、本当に頭を落とされた針がついています。     

 

   
elefanten
 Elefanten & Floehe
ジョナサン・スウィフト(Jonathan Swift)の箴言より/木製の象のオブジェつき/テキスト:ドイツ語
\3500 

ミニアチュール本 "Mini-Leporello"シリーズ。

「象は決して等身大に描かれる事はない、なのに蚤は必ず実物以上の大きさになる」

スウィフトの言葉がドイツ語に翻訳されたもの。灰色の紙に鮮やかな深みのある青で大きく「Elefanten」、続いて蚤を表現するのには小さな文字を使って、デザインもコントラストを効かせたものになっています。おまけのオブジェには木製の小さな象が。黒いフェルトの耳としっぽがとても愛らしい作品です。

 

   
jandl
 Zweierlei Handzeichen
エルンスト・ヤンドゥル(Ernst Jandl)の詩より/家と樹のオブジェつき/テキスト:ドイツ語
\3500

ミニアチュール本 "Mini-Leporello"シリーズ。

 教会の前では十字を切り / 果樹園ではスモモをもぎ取り / 先の行いはすべての信者が知るが / 後の行いは知るものは私ひとり

オーストリアの詩人、文筆家のエルンスト・ヤンドゥルの詩「二通りの標」から。語学力の加減で大意しか読み取れませんが、多才だったヤンドゥルの言葉はビジュアルのイメージも喚起するようです。教会と果樹園のモチーフが紫と緑の色調にのせられ、非常に美しいグラフィック作品となっています。おまけのオブジェには、教会に擬した木製の小さな建物と樹木がひとつ。

 

 
maus
 An die Maus in der Falle
エーリヒ・ケストナー(Erich Kaestner)の詩より/ネズミと罠のオブジェつき
\3500  

ミニアチュール本 "Mini-Leporello"シリーズ。

 お前は輪の中を走る/そして探し求める/穴をか?/走っても無駄だ!/...

「罠にかかったネズミ」が最後に逃げ込むのは自分自身の中、というケストナー一流の皮肉と哀感のこもった詩。ネズミがモチーフだけにどことなく愛らしくユーモラス。真ん中にはネズミが探す穴がちゃんとうがたれていて、いたずら心のあるブックデザインの楽しさが味わえます。薄い点模様の入った紙をベースにネズミの灰色と渋い赤色の文字が美しい対比。おまけのオブジェは、本当に罠に落ちている小さなネズミというもので、凝ったつくりです。

 

     
roth
 Maerchen 
オイゲン・ロート(Eugen Roth)の詩より/羊のオブジェつき/テキスト:ドイツ語
\3500

ミニアチュール本 "Mini-Leporello"シリーズ。

 ある男が別の男と喧嘩して言うには/このひつじめ!/言われた男は/ひつじは取り消してもらおう!/...

ドイツ語で「間抜け」の意味がある羊という語を巡る言葉遊び、かつ皮肉めいた、ミュンヘンの詩人オイゲン・ロートによる短詩です。詩の終わり、引き取り手のない「羊」は二人の男の間で押し付けられ、主もないままあちこちをさまよう事に...。深みのあるきれいな緑の紙に、灰色の羊のシルエットが右に左にうろうろする様がしみじみおかしい。おまけのオブジェは、赤い車輪のついた可愛い台車に乗った羊です。

※詳細画面では、オブジェは大小2種類となっていますが、小のオブジェは売り切れました。今は大のみとなります。ご了承下さい。

 

   
umlaut
 oumlaut (オー・ウムラウト)
ヘルムート・ヘーフリング(Helmut Hoefling)/オー・ウムラウトの活字つき/テキスト:ドイツ語
\3500  

ミニアチュール本 "Mini-Leporello"シリーズ。

あるとき O の上に一匹の蚤が座った/そこにもう一匹が加わった/二匹はランデブー...

作家ヘーフリングのなんとも可愛らしい文字の詩。ドイツ語にはA,O,U の頭に2つの点々..がつく「ウムラウト」と呼ばれる変音文字がありますが、そのうちの「O」についた点々は実は蚤のカップルなのでした、という文字のメルヘン。ランデヴーの文字に薔薇を添えたり、点々がいかにも蚤に見えるように位置を工夫するなど、シンプルな趣向の中にもセンスの良さとユニークさが表れた作品です。ドイツ語ならではの表現をデザインした楽しさは、ぜひ文字好きの人に手にして欲しい。おまけのオブジェには「オーウムラウト」の活字そのものがついています。

※本のカバーは緑や黄色をはじめ数色ありますが、選択はこちらにおまかせ下さい。

 

     
pound
 Meditatio
エズラ・パウンド(Ezra Pound)/犬のオブジェつき/テキスト:英語
\3500

ミニアチュール本 "Mini-Leporello"シリーズ。

犬の奇妙な習慣を注意深く考察すると/私は人間がすぐれた動物であると思わざるを得ない/人間のそれを考察すると...

エズラ・パウンドの詩「Maditatio 黙想」より。犬の行動と人間の行動を照らし合わせた考察のゆくえはただ困惑あるばかり、なのでしょうか。種の異なる犬三匹の素敵なシルエット、そして次には人間の紳士淑女のこれまた素敵なシルエット。全体的にとても優雅でシックなデザインです。おまけのオブジェは当然、犬一匹。白と黒のブチが可愛い。

 

     
hut
 Mehr Mut zum Hut
※フィギュアはついていません
\2000  

ミニアチュール本 "Leporello"シリーズ。

これらの帽子が描かれた原板を、2003年にドレスデンのフリーマーケットで見つけた。すべての版にはH.Wと署名してある(発行者だろうか?)。おそらく20世紀初頭のカタログ用に作られたのだろう...(裏面の挨拶文より)

上記の通り、20世紀初頭の淑女のための帽子カタログから選ばれたデザインをそのまま再度刷り上げたものです。タイトルはさしずめ「もっと帽子の気分」でしょうか。今ではさすがに難しいデザインのものばかりですが、それでも往時のレディたちの頭を飾った様を想像すると楽しいもの。選ばれた8点の帽子たちはいずれもゴージャスで、優雅で、女らしい。モードに興味のある人にも面白い一冊かもしれません。優しいクリーム色に紫のインクがシックな雰囲気です。

 

 
hut
 Mini-Leporello ノート
※フィギュアはついていません
\1200  

おまけ。ミニアチュール本 "Mini-Leporello"シリーズのノート。

こちらは何にも書いていない真っ白な"Mini-Leporello" です。ノート代わりにするにも小さすぎ、あらためて自分で何か印刷するのも難しいでしょう...でも、ドンファンの侍従のように、誰にも内緒の「何か」を小さく書きつけてみるのも一興かも。そんな「何か」に応えてくれそうな小さな手帖は持っているだけで楽しい気持ちになります。 飾るだけでも美しい、木馬が表紙に描かれています。

 
   
いかがでしょうか。ちなみにこのジャバラ本のシリーズ名は "Leporello" 。モーツァルトのオペラ「ドン・ジョバンニ(Don Giovanni)」に登場する、同じような折りたたみノートに主人の恋人の名前を書き連ねる侍従の、その名レポレロから取られたとの事です。こういうネーミング、好きです。

「このレポレロ、日本で大丈夫かな?」と言う工房主に、「日本人は小さいものが大好きだから」と思わず答えたのを今でも覚えてますが、小さいもの、特に小さい本や印刷物の魅力を何にたとえん...とこのページを作っていると、そういう気持ちがしみじみ湧いてきました。仕入れの時から随分時間がたってしまいましたが、旅を振り返りながらの作業も楽しいもので、ちょうどよい寝かせ具合だったかもしれません。お楽しみ頂けますよう。(07.6.27)
deutschland
 

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